【令和5年4月施行】所有者不明土地・建物管理制度とは?申立方法・書式・所有権移転の登記原因証明情報ひな型・管理不全制度との違いを司法書士が徹底解説
隣地や共有地の中に「所有者が誰かわからない土地」「登記簿に住所がなく特定できない土地」があり、売買や利用ができずに困っていませんか?
令和5年(2023年)4月1日より、「所有者不明土地・建物管理制度」および「管理不全土地・建物管理制度」がスタートしました。
本記事では、新制度の概要・メリットから、実際の裁判所への申立書の書き方、実務で作成した申立書および売買後の登記原因証明情報のひな型までを分かりやすく解説します。
1. 所有者不明土地・建物管理制度の概要と4つのメリット
従来の制度(不在者財産管理制度・相続財産清算制度)では、対象不動産だけでなく「不明者の全財産」を管理対象とする必要があったため、裁判所への予納金が高額になり、利用のハードルが高いという難点がありました。
新制度では、「管理・処分したい特定の不動産のみ」を対象として管理人の選任を申し立てることが可能になりました。人ではなく「不動産そのもの」に着目した制度です。
本制度の4つのメリット
- 予納金などの費用を抑えられる:対象不動産のみを管理するため、全財産を管理する従来制度に比べて予納金を低く抑えられます。(※管理命令の登記に不動産評価額の0.4%の登録免許税、未登記建物がある場合は表題登記費用が発生します)
- 共有者が複数名所在不明でも1回の申立てでOK:対象不動産につき1名の管理人を選任でき、手続きや費用も1回分に集約されます。
- 所有者を全く特定できない場合でも利用可能: 登記簿の表題部に氏名のみ記載され、住所が記載されていない土地等でも選任できます。
- 購入希望者でも利害関係人として申立てが可能: 具体的な購入計画や土地利用上の利害関係があれば、購入希望者自身が申立人となれます。
2. 申立ての要件と利害関係人
裁判所から「所有者不明土地管理命令」を出してもらうための要件は主に2点です。
要件①:所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないこと
- 不動産登記簿上の住所に名義人がおらず、住民票・戸籍を調査しても所在が不明な場合
- 所有者が死亡しており、相続人全員が相続放棄して相続人が不存在となった場合
- 表題部に氏名のみ記載があり、住所の記載がなく特定できない場合
要件②:管理命令を発令する必要性があること
- 単に「固定資産税の滞納を解消したい」という理由だけでは認められません。
- 「放置されたままでは利用に著しい制限が生じる」「隣地所有者が購入して一体的に利用・適正管理を行いたい」といった具体的な必要性(管理業務の見通しや見積書など)を疎明します。
3. 管理人の権限と選任後の流れ
- 管理人の選任: 主に弁護士や司法書士が選任されます(境界確認等が必要な場合は土地家屋調査士等)。
- 管理人の権限:
- 保存・利用・改良行為は裁判所の許可なく行えます。
- 不動産の売却(権限外行為)には裁判所の許可が必要です。売却代金は、裁判所の許可を得て不明者のために管轄供託所へ供託されます。
- 不在者財産管理人とは異なり、管理人が本人に代わって遺産分割協議を行うことはできません。
4. 【ひな型】所有者不明土地管理命令申立書
表題部に氏名のみ記載され住所のない土地を、隣地所有者が購入するために申し立てた実務例です。
所有者不明土地管理命令申立書
令和〇年〇月〇日
〇〇地方裁判所〇〇支部 御中
申立人 〇〇県〇〇市〇〇〇番地
〇〇 〇〇 (印)
貼用印紙 1,000円(※土地一筆につき1,000円)
予納郵券 6,000円(※裁判所指定の内訳)
第1 当事者の表示
別紙当事者目録記載のとおり
第2 申立て趣旨
別紙物件目録記載の土地について所有者不明土地管理人による管理を命ずるとの裁判を求める。
第3 申立ての原因
1 利害関係を基礎づける具体的な事情
本件土地の周囲の土地については申立人が所有しており、本件土地のみを所有していないことによる、土地の利用についての制限が大きい。
2 対象土地が所有者不明土地に当たることを基礎づける事情
登記事項証明書記載のとおり、本件土地においては権利部の登記がなされておらず、所有者の住所の記載がないため、不在籍・不在住証明書を取得することもできず、本人を特定することができない。申立人と同姓ではあるものの、申立人の直系尊属の戸籍にも表題部所有者「〇〇 〇〇」という人物は存在せず、申立人の知っている範囲内においても、同名の人物は存在しない。
3 発令の必要性
(1)対象土地の現状の管理状況
登記事項証明書の地目はため池となっているが、30年以上前に申立人の父が埋め立て工事をしたため、更地になっている。申立人の所有する隣地とは明確な区分がなくなっている。
(2)対象土地に必要な管理行為の内容
隣地を所有している申立人において購入を希望する。所有者不明土地管理人におかれては、売却手続きを実施いただきたく存じる。
4 よって、申立ての趣旨記載の裁判を求める。
【添付書類】
□ 申請書副本
□ 対象土地の登記事項証明書(表題部のみのもの等)
□ 対象土地の閉鎖登記事項証明書
□ 固定資産評価証明書(写し)
□ 公図(不動産登記法第14条第4項の地図に準ずる図面)
□ 現況写真
□ 案内図(Googleマップ及び地番図等を活用)
□ 土地についての不動産登記令第2条第3号に規定する地積測量図申請書の取下書等
□ 土地所有者の探索等に関する報告書
□ 申立人の直系尊属の戸籍(除籍)謄本・相続関係説明図
□ 周辺土地を申立人が所有していることを証する登記事項証明書
5. 【ひな型】裁判所の売却許可後の「登記原因証明情報」
管理人が裁判所の売却許可を得て、申立人(買主)へ売買による所有権移転登記を行う際の登記原因証明情報です。
登記原因証明情報
1.登記申請情報の要項
(1)登記の目的 所有権移転
(2)原 因 令和〇年〇月〇日 売買
(3)当 事 者 権利者(買主):〇〇県〇〇市〇〇〇番地 〇〇 〇〇
義務者(売主):〇〇県〇〇市〇〇〇番地
所有者不明土地管理人 弁護士 〇〇 〇〇
(4)不 動 産 〇〇市〇〇字〇〇〇番2 ため池 〇〇.〇〇㎡
2.登記の原因となる事実又は法律行為
(1)〇〇地方裁判所は、令和〇年〇月〇日、本件不動産の所有者不明土地管理人弁護士〇〇〇〇(以下「乙」という)に対し、本件不動産の売却の許可決定をなした。
(2)令和〇年〇月〇日、〇〇〇〇(以下「甲」という)と乙は本件不動産につき売買契約を締結した。
(3)この売買契約には、売買代金全額の支払時に本件不動産の所有権が移転する旨の特約がある。
(4)令和〇年〇月〇日、甲は乙に売買代金全額を支払い、乙はこれを受領した。
(5)よって、同日、本件不動産の所有権は甲に移転した。
令和〇年〇月〇日 〇〇地方法務局 御中
上記の登記原因のとおり相違ありません。
(登記義務者)
所有者不明土地管理人 弁護士 〇〇 〇〇 (職印)
6. 【参考】「管理不全土地・建物管理制度」との違い
- 所有者不明土地管理制度: 所有者が「不明」な場合に利用
- 管理不全土地管理制度: 所有者は「判明」しているが、適正に管理されず倒壊や衛生上の危険がある場合に利用
管理不全制度では、所有者が特定されているため、管理人は保存・修繕等の管理行為のみを行い、売却や建物の解体を行うには「所有者本人の同意」が必要となります。
まとめ
所有者不明土地管理制度を利用することで、従来は諦めるしかなかった「名義人不明の土地」や「登記簿に住所がない土地」を適法に管理・取得できるようになりました。