【司法書士が本音で語る】一般家庭のための「本当に使える」リアルな認知症対策
「親が認知症になったら、銀行口座や不動産が凍結される」という話を耳にすることが増えました。 焦って対策を探すと、最近では「家族信託」や「成年後見制度」といった難しい言葉がたくさん出てきます。
しかし、これらは手続きが複雑だったり、莫大な費用がかかったりして、普通の一般家庭にはハードルが高すぎることも少なくありません。
今回は、法律のプロであり、現場のリアルな金銭感覚を知る司法書士の視点から、「一般家庭で本当に有用で、コストを抑えられる現実的な認知症対策」を分かりやすく解説します。
1. 預貯金対策:凍結を防ぐ「財産管理契約」とカードの共有
親が認知症になってから銀行窓口へ行くと、口座を凍結され、「成年後見人を付けてください」と言われてしまう可能性が非常に高いです。
これを防ぐための、現実的のローテク対策がこちらです。
- 対策:親が元気なうちに「財産管理契約」を結び、普通口座のカード番号を伝えておく
親の意思がはっきりしているうちに、子との間で「代わりに財産を管理します」という財産管理契約を締結しておきます。そして、まとまった定期預金などはあらかじめ全て解約して「普通口座」に移し、キャッシュカードで日常の引き出しができる状態にしておきます。
⚠️ 親族間トラブルを防ぐ鉄則 後に他の相続人から「勝手に親のお金を使ったのではないか」と疑われないよう、引き出したお金のレシートや領収書はすべて厳重に保管しておきましょう。
2. 不動産(実家)対策:「生前贈与」と「遺言書」の使い分け
実家の名義人が認知症になると、売却することも、他人に貸し出すこともできなくなります。そうなる前に、親が元気なうちに手を打つ方法は主に2つあります。
Aパターン:将来、実家を売る・貸す可能性があるなら「生前贈与」
本人が元気なうちに、子どもや配偶者に名義を変更(生前贈与)しておきます。 生前贈与を検討する際は、税金の特例を賢く使いましょう。
- 婚姻期間20年以上の配偶者への贈与: 配偶者控除(おしどり贈与)の検討
- 子や孫への贈与: 相続時精算課税制度の利用の検討
⚠️ 生前贈与の注意点 名義を完全に移してしまうため、子どもが勝手に実家を売却してしまったり、親が追い出されてしまったりするリスクがゼロではありません。
Bパターン:最後まで今の家に住み続けたいなら「遺言書の作成」
「名義を変えるのは不安。最期まで自分の家として安心して暮らしたい」という場合は、生前贈与ではなく「遺言書」を作成しておきます。亡くなった後に指定した人へ所有権が移るため、生前の追い出しリスクはありません。
3. 【最後の手段】認知症になってから実家を売る場合の注意点と「一時後見人」
遺言書を作成していたとしても、親の生前に認知症が進み、「介護施設に入るために、どうしても実家を売って資金を作りたい」となるケースがあります。
この場合は、最後の手段として家庭裁判所へ「成年後見(または保佐・補助)」の申し立てをすることになります。
後見人が選ばれれば実家の売却手続きが可能になりますが(※居住用不動産の場合は家裁の許可が必要です)、ここで一般の方が意外と知らない「時間の罠」があります。
申し立てから選任までは数ヶ月かかる
成年後見の申し立てをしてから、裁判所が正式な後見人を決定するまでには、通常数ヶ月(1〜3ヶ月程度)のタイムラグがあります。その間、不動産の売買契約や重要な手続きはストップしてしまいます。
今後は「一時後見人(成年後見命令)」の制度が始まる
「施設の入所期限が迫っている」「どうしても今すぐ手続きを進めたい」という緊急事態の場合、申し立てと同時に、正式な決定が出るまでの間のピンチヒッターとして「一時後見人(職務代行者)」を選任してもらうよう、裁判所に申し立てる(保全処分)ことが可能になります
これにより、将来的には、正式な後見人が決まる前の空白期間であっても、緊急の法律手続きを進めることができるようになります。
【補足】最近よく聞く「家族信託」ってどうなの?
認知症対策を調べると、必ずと言っていいほど「家族信託(民事信託)」という方法が紹介されています。 これは「実家を売る権限だけを子どもに渡しつつ、親はそのまま最期まで住み続けられる」という、理論上は非常に優れた理想的な仕組みです。
ただし、一般家庭にはあまりお勧めしていません。 なぜなら、専門家(司法書士など)に支払うコンサルティング費用や契約書の作成費用、信託登記の費用などで、初期コストが数十万〜100万円以上と非常に高額になるケースが多いからです。
費用対効果を考えると、一般的なご家庭であれば、上記でご紹介した「財産管理契約」「生前贈与」「遺言書」、そして必要に応じた「後見制度」をシンプルに組み合わせる方が、コストを抑えつつ十分な効果を発揮できます。
まとめ:国家に支配させない「家族の信頼関係」が最大の対策
成年後見制度や一時後見人の仕組みは、ピンチの時には役立ちますが、一度国(家庭裁判所)に権限を渡してしまうと、それ以降は財産の使い道に厳しい制限がかかる不自由な檻にもなり得ます。
一番大切なのは、親が元気なうちに家族でしっかりと話し合い、「契約」と「信頼」によって、国に介入させない仕組みを先回りして作っておくことです。